設計のゴールとは
建物の設計の依頼を受けて、私は仕事をします。
クライアントの望んでいることを引き出し、それを具現化します。
しかし、初めから、それが形になるわけではありません。
あなたが望んでいることは、こんなことでしょうか?
それとも、こんなことでしょうか?
いろいろな形にして、それを表現し、クライアントがピンとくるような一致点を探り出していきます。
夢を形にするというのは、そういうことなのではないでしょうか?
クライアントはイメージとしてはおぼろげに抱いているものがあります。
しかし、そのおぼろげなイメージはまだ形になりません。
言葉にもなっていない、うまく伝わっていないかもしれません。
それを受け止め、言葉にしていきます。
それが「物語」です。
物語は、初めの話がはじまると、次々にストーリーが展開していきます。
クライアントがそれに新たな物語を付け加え、こうしたらどうだろう?
こんなふうにできるのかと、話の中心に入り込んでいきます。
この夢を広げる作業は、風呂敷を広げる作業です。
夢がどんどん広がっていき、たのしい時です。
しかし、それがそのまま形になるのではありません。
大きく広げた風呂敷を、しぼめていかなくてはならない段階があるのです。
現実的にそれが可能なのか、予算の中で収まるのか?
その段階でクライアントは現実に引き戻されます。
だからといって夢を捨てていくわけではありません。
次の何を捨てて、何を拾うかを選定する作業を通じて、本当に自分にとって価値があることが浮き彫りになります。
メリハリがついて、個性的になっていきます。
その結果、贅肉のとれた、本当に自分らしい、自分の等身大に少し背伸びした心地よいオリジナルな世界が誕生するのです。
このプロセスは自分の人生そのものでもあります。
夢と現実の中でもがきながら、本当の自分を探していきます。
自分の中に設計者とクライアントがいます。
風呂敷を広げ、絞り込んでいきます。
トライし、失敗して、またトライします。
私の設計は失敗を前提としています。
クライアントの要望がすぐに図面になるとは初めから考えていません。
でも、クライアントに伝え、確認するために、図面や模型で表現しなければなりません。
それで終わりではなく、そこから始まります。
修正し、訂正し、何度も描きなおします。
失敗を前提にしているので、描きなおしたり、修正することは当然と考えているのです。
次第にクライアントの要望に近づいていきます。
風呂敷が広がった図面が、すこし風呂敷を絞った図面に修正されます。
その手間を惜しんでは私の仕事は成立しません。
設計のゴールは図面のゴールでもありますが、究極はクライアントの笑顔なのです。
本当に喜んでもらえる仕事を成し遂げた時に、私も共に喜ぶのです。
心理学者のカール・グスタフ・ユング
元型など、深層心理学を臨床的に研究しました。
私の尊敬する師です。
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